はじめに
昨年、LTE-M を活用したイベント駆動型 IoT カメラの試作をご紹介しました。常時映像は要らないけれど、何かが起きたときの現場の様子だけはすぐ見たい。そんな用途に向けた、電源工事の要らないカメラです。

透明ケースの上段が手作りの拡張基板。左の赤い基板がシリアルカメラです。
前回は、当社の LTE-M 基板の初代(v1)を使った、コンセプトを確かめるためのデモでした。今回は、当社で開発中の ELmote® LTE-M モデル(当社 LTE-M v2 基板) をベースに、より製品化しやすい構成で作り直しました。
いちばんの違いは、カメラ専用に部品を組むのではなく、汎用の基板に拡張基板を 1 枚載せるだけでカメラになることです。
前回の試作との違い
| 観点 | 前回(2025 年) | 今回 |
|---|---|---|
| 位置づけ | v1 基板で、イベント駆動型カメラのコンセプトを確かめるデモ | v2 基板ベースで、製品化しやすい構成 |
| 作り方 | カメラ用途に合わせて部品を組み合わせた | 汎用の LTE-M v2 基板 + 差し替えられる拡張基板 |
| カメラ | ArduCam MEGA-3MP(SPI、3 メガピクセル) | Grove Serial Camera(UART、最大 640x480) |
| 撮影のきっかけ | 時間、振動センサー | 時間(デモ)。振動センサーや接点入力でのイベントも構成上可能 |
| 電源 | ソーラーパネル + リチウムイオン電池 | 塩化チオニルリチウム電池 |
| ほかの用途 | カメラ専用 | 同じ基板・同じファームウェアで、センサーや接点監視にも切り替えられる |
画素数では前回のほうが上です。今回の狙いは画質ではなく、「同じ基板の上で、拡張基板を替えれば用途が替わる」ことを、いちばん重いデータである画像で確かめることにあります。
今回の構成
カメラ:Grove Serial Camera Kit
カメラには、Seeed 社の Grove Serial Camera Kit を使いました。UART でコマンドを送ると撮影し、JPEG を小分けにして返してくれます。解像度は 160x120 / 320x240 / 640x480 の 3 段階です。※すでに製造中止品かもしれません。
拡張基板:シリアル+SD カードスロット(ハンドメイド)
LTE-M v2 基板に載せる拡張基板は、ユニバーサル基板で手作りしました。載せたのは次の 4 つです。
- SD カードスロット:撮った画像を、送る前にいったん保存する
- 3.3V → 5V の昇圧 DC-DC コンバータ:カメラは 5V で動くため
- 3.3V ↔ 5V のロジックレベル変換回路:基板側の 3.3V とカメラの 5V をつなぐ
- 5V 出力とシリアル接続用の端子台(5V・GND・RxD・TxD)と、ロジックレベルの切替ジャンパ(3.3V / 5V)
端子台と切替ジャンパがあるので、この拡張基板はカメラ専用ではありません。5V や 3.3V で動くシリアル機器なら、同じ拡張基板でつなげます。

端子台にカメラの 4 本線(5V・GND・RxD・TxD)をつないでいます。
[シリアルカメラ]
│ UART (5V)
▼
[シリアル+SD 拡張基板]
├─ 昇圧 3.3V → 5V
├─ レベル変換 3.3V ↔ 5V
└─ SD カード
│
▼
[LTE-M v2 基板]
│ LTE-M
▼
[MQTT ブローカー]
│
▼
[スマホアプリ]
推し① 1 回の起床で、撮って・送って・また眠る
LTE-M v2 基板は、ふだん deep sleep で眠っています。起きるたびに次の流れを 1 回だけ実行し、また眠ります。
- カメラで撮影し、JPEG を SD カードに保存する
- LTE-M のモデムを起こして、ブローカーにつなぐ
- まず画像の「メタ情報」(画像番号、サイズ、解像度、分割数)を送る
- 続けて、画像本体を 1KB ずつに分けて送る
- モデムを落として、再び眠る
640x480 で撮影したときの実測です。
| 項目 | 320x240 | 640x480 |
|---|---|---|
| 画像サイズ | 5,986 B | 22,985 B |
| カメラ → 基板(SD へ保存) | 797 ms | 3,083 ms |
| 基板 → ブローカー(分割送信) | 6 分割 / 808 ms | 23 分割 / 3,103 ms |
| 受信側でメタ情報から全分割の到着まで | 2.0 秒 | 3.1 秒 |
| 欠落 | なし | なし |
640x480 では、起床してから画像を送り終えるまで約 22 秒でした。そのうち約 12.6 秒はモデムの起動待ちで、解像度を 640x480 に上げたことによる増加は、撮影と送信で合わせて 5 秒足らずです。
JPEG の大きさは写すものによって変わります。同じ 640x480 でも、今回の撮影では 15,603 B から 22,985 B まで幅がありました。
推し② 画像を欠けずに届ける工夫
画像はセンサー値に比べて桁違いに大きく、1 回の送信には収まりません。そこで次の 2 つの工夫をしています。
送る前に SD カードに保存する。 撮影と送信を切り離しておけば、メモリの少ないマイコンでも大きな画像を扱えます。
分割した 1 つずつに、画像番号と連番を付ける。 受信側は、届いた分割を連番順に並べ直して JPEG に戻します。どれかが欠けても、「何番が欠けたか」がわかります。
今回の試験では、320x240(6 分割)でも 640x480(23 分割)でも、1 つも欠けずに届きました。

画像 #29、640x480、16,524 B、欠落なし。
スマホでどう見えるか
受信した画像は、テスト用のスマホアプリのカードに表示されます。画像の下には、画像番号・解像度・サイズ・欠落の有無を小さく出しています。
640x480 は、スマホのカードに収めると小さく見えます。そこで、画像をタップすると全画面になり、ピンチで拡大・ドラッグで移動・ダブルタップで元に戻るようにしました。

タップで全画面に。拡大すると細部を確認できます(拡大すると画素も見えてきます)。
ハマりどころ:通信は正常なのに、画像が真っ白
実装の途中で、一度はまったことがあります。カメラの電源が 3.3V だと、通信はすべて正常に終わるのに、届く画像が真っ白になるのです。
原因は、カメラの中で「通信や JPEG 変換を担うデジタル部」と「光を受けるイメージセンサー」とで、必要な電圧が違うことでした。3.3V ではデジタル部だけが動いてしまうため、コマンドへの応答も転送も、見かけ上はすべて成功します。
人の顔に向けて撮り比べた結果です。
| カメラの電源 | 画像サイズ | 画素値のばらつき(標準偏差) | 画素値の種類 |
|---|---|---|---|
| 3.3V | 6,835 B | 0.0 | 1 |
| 5V | 18,946 B | 48.2 | 255 |
3.3V では、画面全体がまったく同じ 1 色でした。通信ログを見ても異常がないので、気づきにくい症状です。今回の拡張基板に 5V の昇圧回路とレベル変換回路を載せているのは、このためです。
撮影のきっかけは、時間だけじゃない
今回のデモは、一定時間ごとに起きて撮影します。これに加えて、LTE-M v2 基板のメイン基板側にある DI(デジタル入力)インタフェースを使えば、扉の開閉や漏水センサーの接点をきっかけに起きて撮影する構成も取れます。
今回のデモにはこの仕組みを組み込んでいませんが、接点の変化で基板を即座に起こす仕組みそのものは、ブレーカー監視ですでに実機で動かしています。「扉が開いたら、そのときの様子を 1 枚送る」といった使い方が、基板を替えずに実現できます。
画像を送るなら、LoRaWAN と LTE-M のどちら?
当社では以前、LoRaWAN で画像を送れる Dragino AIS01-LB もご紹介しました。画像という点で比べると、次のようになります。
| 観点 | LoRaWAN(Dragino AIS01-LB) | LTE-M(LTE-M v2 基板 + カメラ拡張基板) |
|---|---|---|
| 画像 | 80x60、白黒 | 最大 640x480、カラー |
| 1 枚の大きさ | 約 4.8 KB | 640x480 で約 15〜23 KB(今回の実測) |
| 分割 | 80 バイトずつ | 1 KB ずつ |
| ゲートウェイ | 必要 | 不要 |
| 向いている使い方 | メーターの数字を読むなど、小さな画像で足りる用途 | 現場の様子を目で見て判断したい用途 |
「数字が読めればよい」なら LoRaWAN、「その場の様子を人が見て判断したい」なら LTE-M、というのが素直な使い分けです。
正直な課題
- 画質の上限は 640x480 です。細かい文字を読むような用途には向きません
- 画像は 1 枚あたり十数 KB になるので、撮影の頻度がそのまま通信量に効いてきます
まとめ
- LTE-M v2 基板は、拡張基板を 1 枚載せるだけで電池駆動の IoT カメラになる。拡張基板は 5V / 3.3V のシリアル機器に広く使える
- 画像は SD カードに保存してから、番号付きで分割送信する。640x480 でも欠落なく届き、起床から送信完了まで約 22 秒
- 一定時間ごとの撮影に加えて、DI の接点をきっかけにした撮影も構成上可能
- 電源工事の要らない IoT カメラの試作・検証(LTE-M)
- シリアル機器や接点信号をつなぐ拡張基板の試作(ユニバーサル基板でのスピード試作)
- 画像を受け取るクラウド・スマホアプリまでのシステム構築
参考情報
- LTE-M を活用したイベント駆動型 IoT カメラの開発(前回の試作)
- LoRaWAN で画像転送!? Dragino AIS01-LB の魅力
- 見張りの電波はキャリアに任せる ― 自社 LTE-M v2 基板でつくる、ゲートウェイなしのブレーカー監視
- 当社 IoT シリーズ「ELmote®」に LTE-M モデル登場
- Grove Serial Camera Kit(Seeed Studio Wiki)
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